ふとこん編集部 2026年9月26日

フリースクールインタビューVol.1
行かなくていい、ではなく
戻りたい気持ちを応援する。
今回はさいたま市浦和区の「おうちフリースクール ポレポレ」にお話を伺いました。2026年4月に自宅の一室で開いたフリースクールで、さいたま市で13年間中学校の教員をしていた佐藤さんがひとりで運営しています。
「学校に戻りたい気持ちを応援する」ことを前に打ち出している、ほかとは少し違うフリースクールです。開いて半年、どんな子が来ているのか、どう関わっているのかを聞かせていただきました。

佐藤沙織さん
おうちフリースクール ポレポレ代表
元中学校教員・学校心理士。教育相談主任や特別支援教育コーディネーターとして13年間、不登校や発達特性のある生徒と保護者を支援してきました。現在はさいたま市浦和区で小さなフリースクールを運営しています。学校に行きたいけれど行けない子どもたちに寄り添い、一人ひとりに合った学び方を一緒に考えています。
学校でできることには限りがあった
まずは自己紹介をお願いします。
さいたま市で13年間、一昨年まで中学校の社会科の教員をしていました。教育相談主任をやらせていただいていた期間が長かったので、不登校の生徒と関わる機会が多く、自分のクラスにも不登校の生徒を受け持つことがよくありました。
その中で、学校でできることには限りがあるなと感じていました。自分ひとりならできたとしても、学年全員で足並みをそろえられないことを自分だけがやってしまうのは、学年の運営上よくないこともあります。そのあたりの難しさを、特に後半はずっと感じながら過ごしていました。
いまはさいたま市浦和区で「おうちフリースクール ポレポレ」を運営しています。本当に小さな、自宅の一室でやっているフリースクールです。
自分の学校をつくりたいという夢
教員を辞めてフリースクールを始めようと思ったのは、なぜですか。
中学校の頃は学校が嫌いで、「学校を変えたい」と思うようになりました。それがだんだんと「自分の学校をつくりたい」という夢に変わっていきました。
でも、子どもの立場で学校が嫌いだっただけで学校を否定するのは違うかな…と感じるようになり、現場を知るために中学校教員になりました。やってみたら、すごく楽しくて、学校には学校にしかない価値があることも分かって…気づいたら13年続けていました。
でもいつかは「自分の学校をつくりたい」という夢は変わらなくて。そんな時、最後に受け持った子どもたちと、すごくいい3年間を過ごすことができたんです。
言葉にすると薄っぺらいのですが、「ここで終わりにして悔いはない」と思えるような3年間でした。次のステージに進ませてくれた彼らには、とても感謝しています。
来てくれたのは長く不登校が続いている子たち
開いて半年、印象はいかがですか。
最初はこれまでのつながりで来てくださった生徒さんが多かったです。教員時代に築くことのできた関係性に助けられた部分がとても大きかったと思います。
オープンして2か月後くらいからは、長く不登校が続いている子たちが選んでくれるようになりました。そこは想定していなかったので、一番意外でした。もう6年、7年、8年学校に行っていませんという子たちです。しかも、それまで私と全くつながりのなかったご家庭がほとんどなんです。
大手のフリースクールにも、学校の別室にも、自治体の教育相談センターにも行ったけれど駄目だった、という方もいますし、ずっと家から出られずにどことも関わってこなかったけれど、ここなら行けそうとお子さんが引っかかって来てくれた方もいます。大きく分けるとその二つですね。
家のような形でやっているところに惹かれて、ということでしょうか。
どちらかというと、元教員だというところで来てくださる方が多い感じがします。元教員でやっている方って、意外と少ないのかなと思っていて。
福祉の手も支援の手も届かない狭間の子に
どういう子に来てほしくて始めたのでしょうか。
家庭がすごくしんどい状態、たとえば所得が低いとか虐待があるとか、福祉の手が入るご家庭には助けてもらえる先がありますよね。お子さん自身に強い発達の特性があれば、支援の側からのサポートが入ると思います。
でも、家庭はそれなりに落ち着いていて福祉が入るほどではない。お子さんも発達の課題が全くないわけではないけれど、診断がつくほどではない。いる環境が変われば問題なく適応できてしまう。そういう子どもが学校に行けなくなったときに、助けてもらえる場所がすごく少ないと、学校にいたころに感じていたんです。狭間の子どもになってしまっているなと。
そういう子たちは、いいタイミングで背中を押してあげたり、保護者の関わり方がほんの少し変わったりするだけで、学校に行けるようになることがすごく多い。それが教員としての手応えとしてあったので、そういう子たちのサポートができればというのが最初の狙いでした。

学校に戻りたい気持ちを応援する
学校に戻れるなら戻る、という提案もするのでしょうか。
はい。そこはたぶん他と違うところで、「学校に戻りたい気持ちを応援したい」ということを前に打ち出しています。
いまのトレンドは「学校に行きたくないなら行かなくていいよ、別の居場所を探そう」だと思うんですけど、そちらではなくて、学校に行きたい、やっぱり戻りたいという子を応援したいというところから始まっています。そこは結構違うところかもしれません。
コースはグループコースと個別コースに分かれていて、グループコースは午前中に活動しています。なので、午前中はここに来て、午後から学校に行くという子もいます。
居場所というより前に進むための場所
通っている子にとって、ポレポレはどういう場所になっていますか。
居場所というよりは、前に進みたい気持ちを応援してくれる場所、というイメージだと思います。
入会面談にかなり時間を取っています。最初に保護者の方に来ていただいて、生育歴やこれまでの状況を伺います。次に、必ずお子さんひとりで来てもらって、どういう願いを持っているかを聞きます。保護者の方と考えが必ずしも一致しているわけではないですし、保護者の方もご自身の願いを通してお子さんを見てしまっているところがあるので、ひとりで来てもらって気持ちを聞くんです。
最後に、保護者の方とお子さんと私とで、それぞれがこういう思いを持っていますね、目指すゴールはここですね、私ができるサポートはこうです、ということを確認してから入っていただいています。なので、目指したいところに向かってサポートする場所、というイメージが強いと思います。

「なんでだろう?」から始まる学び
実際にやっていることは、勉強が中心ですか。
グループコースで勉強らしい勉強をしている時間は、毎回30〜40分くらいです。
最初にボードゲームやカードゲームのような、関わりながらできることをみんなでやります。そのゲームは大体その日の学習につながるものを選んでいるので、勉強味のあるゲームという感じです。そのあと、それに関連したその日のテーマの学習をみんなでやって、最後の30分くらいが個別の学習です。基本は勉強なんですけど、しっかり勉強という雰囲気になるのは最後の30〜40分くらいですね。
学習内容は、「なんでだろう?」から始まる学びを大切にして決めています。1人ではできないことをやってみたり、誰かと関わる楽しさを少しでも感じたりできたらいいなと思っています。
個別コースはどうですか。
個別は本当にオーダーメイドなので、人によってすごく違います。ソーシャルスキルトレーニングだけで来ている子もいますし、1週間自分で勉強したことの中から、分からないところを質問しに来る子もいます。1週間の学習計画を一緒にゆっくり立てて、家でやってきて、また見直す、という子もいます。

昼夜逆転の生活から県内のトップ校を目指して
これまでで印象に残っている出来事はありますか。
小学生のころから学校に行けていなかった中学2年生の子が、5月ごろに入ってきてくれたんです。その子は最初に来たとき、県内のトップ校に絶対に行きたいんだと言っていて。
学校に行けないどころか昼夜逆転で、家でゲームをしたり動画をみたりする生活をずっと続けてきたのに、いきなりそこに行きたいと。とても驚いたので理由を聞いてみたところ、ポツリポツリと話してくれました。
この時点ではよく分からないこともたくさんあったのですが、単なる思いつきではないな…というのは伝わってきました。
ただ、その学校に行きたいという気持ちだけはすごく強かったんです。最初はその気持ちさえうまく説明できないような感じでしたけど、とにかく自分を変えたいんだというところから始まりました。お母さんも本当に覚悟を決めて、これが最後なんですという感じでいらっしゃって。親子で変えていきたいというエネルギーだけはすごかったんですよね。
サポートしたのは本当に基本的なことです。今の生活リズムを書いてもらって、目指したい生活リズムと比べて整理して、変えられるところから変えていく。勉強の計画も、最初は1日10分、漢字を5個書くところから始めて、計画を立ててやる、ということを支えていきました。そうしたら1か月ぐらいで昼夜逆転が治って、生活リズムも整って、勉強もできるようになったんです。
来たときは、目を見て話したり、相手の言葉をきちんと受け取って返すということができなくて、会話が難しかったんです。話す内容も少し幼さがあって、休んでいた分だけ時が止まってしまっているな…という感じで。それが、生活が変わって、目標を持って何かに取り組めるようになってくると、話し方や反応まで、みるみる中学生の男の子っぽくなっていきました。
きっかけをひとつ与えただけで、その部分だけでなく、その外側までガラッと変わることがあるんだなというのが、すごく印象に残っています。それは最初にすごく時間をかけたからで、学校ではできなかったことです。こういうやり方だからできたことだと思います。
最初に時間をかけるというのは、どういう関わり方ですか。
最初は基本的に個別コースをお願いしていて、予算が許す方には頻度高く来ていただくようにしています。まずは生活を振り返るところから始めていきます。生活リズムから整えていくイメージです。
できたこととできなかったことを振り返って、できたことの中から次にまたできそうなことを見つけていく。できなかったことにはこだわらず、できることをどんどん増やしていく。その繰り返しを丁寧にやっている、というイメージです。
不登校の子どもたちって、驚くほど自己肯定感が下がっているので、些細なことでも「できたね」と認めてあげると、ぐんぐん元気になっていきます。
でもその一方で、子どもって欲張りなので、元気がなかった自分のことをすぐ忘れてしまうんです。「またできなかったー」ってなりがちなんですが、そういう時は「ポレポレに来始めたときのこと思い出して!」と成長を実感してもらうようにしています。もちろん保護者の方もです。
待つときは待つ
大事にしていること、逆にやらないと決めていることはありますか。
一番大事にしているのは、子どものタイミングをしっかり見極めることです。基本の方向性は学校に行きたい気持ちを応援することなんですけど、どこで背中を押していいかは焦ってはいけないところですし、本人の気持ちと動ける状態は必ずしも一致しません。そこはこちらでしっかり見極めて、行くときはしっかり行くし、待つときは待つ。それを一番大事にしています。
一方で、それだけ細かく関わっていくので、ポレポレありきになってしまうと、本人にとっても親にとっても、その後の自立を妨げてしまいます。なので、ある程度の線引きはしています。
授業はひとりでやっているので、授業に入っていなくて返せるときは、LINEでいつでも連絡していいですよ、いつでも返事しますよとお伝えしています。でも無制限にはしません。たとえば今日久しぶりに登校するというときに、行く行かないになったり、部屋から出てこなかったり、その場で聞きたいことはあると思うんです。そういうことには時間外でもお答えします。でも、緊急性のないことをLINEでだらだらやり取りすることはしない。そういう線引きは気をつけています。
保護者の方とは、普段どう関わっていますか。
グループでも個別でも、その日のうちに、授業でやったことやお子さんの様子をLINEでお伝えしています。グループコースは料金の中に学期に1回の保護者面談が入っていて、7月・12月・3月の学期末に1時間、学期の振り返りと、次の学期にどうサポートしていくかをご相談しています。
それとは別に、ご希望があれば60分6,000円で、保護者の方ご自身の相談や、家庭での関わり方のお話もしています。お子さんが通っていなくても受けています。

学校の先生とフリースクールの先生は違う
フリースクールをやってみて、やりがいはどうですか。
個人事業主でひとりでやっているので、雑な言い方をすれば好きなようにできる。周りと足並みをそろえなきゃいけないとか、学校の方針や市教委の方針とか、そういうところに気を使わずに、こうできたらいいのにと思っていたことができる。それが一番のやりがいです。それだけしっかり関われるので、お子さんが変わっていく姿がよく見えるのも、やりがいですね。
学校の教員として関わっていたときより、はっきり見えるということですか。
そうですね。私自身は何も変わっていなくて、言うことや話す内容が同じでも、子どもや保護者から見ると、学校の先生とフリースクールの先生って違うんだなとすごく感じています。
教員のときは、どんなに信頼してくれて、いい先生だと思ってくれている親子でも、結局は自分が行けなくなった場所の教員だということがベースにあるんです。だから心を開いて話ができる状態になるまでが大変でしたし、私自身のことでなくても、たとえば管理職が電話で何か言ってしまったとか、そういうことがあるだけで、また関係を作り直さなければいけなかった。
ここは良くも悪くも、ご自身で見つけて、インスタやホームページを見て共感して来てくださった方たちです。こういうふうにしたらどうですかというアドバイスを受け入れていただけるベースが、最初からできている。そこが違うところです。
ただ、それは怖さでもあります。何年も動かなかった子どもが急に動いたりすると、私の力ではなくて、ただタイミングが合っただけだとしても、先生のおかげ、となってしまう。そこは怖さでもあるんです。
同じ道を考えている先生たちへ
これからの展望を聞かせてください。
基本的には、自分ひとりで手が届く範囲、丁寧に見られる範囲でやっていきたいというのがひとつです。
もうひとつは、同じような事業を始めたい方のサポートをしていきたいと思っています。私みたいな教員って、さいたま市だけかもしれませんが、いまいっぱいいると思うんです。30代後半から40歳くらいの、お子さんがいる先生方です。
お子さんが生まれるまでは担任でバリバリやっていたり、教育相談主任をやっていたりしたけれど、お子さんが生まれて無制限に勤務することが難しくなって、担任や教育相談主任を外れている。不登校のお子さんや発達に課題のあるお子さんへのスキルはすごく高いのに、それを現場で出し切れていない方や、子育てとの両立に悩んでいる方がたくさんいると思います。
学校の外から子どもをサポートしていく働き方として、悪くはないんじゃないかと思っています。同じような考えの方がいたら、開業にあたってのサポートなどもできたらいいなと思っています。
お子さんの感覚を大事に選んでほしい
最後に、このページを見ている保護者の方へメッセージをお願いします。
フリースクールって本当にいろいろあって、いろいろな立場の方がいろいろな考えでやっている場所だと思います。良い悪いはあまりなくて、お子さんにぴったり合う場所が必ずあると思うので、相性がすごく大きいものだと思います。
口コミや、誰かがいいと言っていたとか、いろいろな情報はあると思うんですけど、実際に足を運んで、なんとなくこの先生好きだなとか、この人の言っていることは信用できそうだなとか、保護者の方はもちろん、お子さんの感覚を大事にして選んでいただけたらと思っています。
だから、私のところもすごくたくさんの人に来てほしいとはあまり思っていなくて。共感してくださって、一緒に頑張りたいと思う方に来ていただけたらいいなと思っています。
基本情報
| 団体名 | おうちフリースクール ポレポレ |
|---|---|
| 種別 | フリースクール |
| 所在地 | 埼玉県さいたま市浦和区 |
| 参加のかたち | 通所型 |
| 対象 | グループコース:小学6年生〜中学3年生 個別コース:小学生〜高校生 |
| 費用 | グループコース:週1回 月30,000円/週2回 月40,000円(学期末の保護者面談を含む) 個別コース:50分 5,000円(10分 1,000円で調整可) 保護者の相談:60分 6,000円 |
| 開催 | 開室:月〜金 9:00〜14:00 グループコース:週1回または週2回 午前(12:00まで) 個別コース:日時は相談 |
| 設立 | 2026年 |
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